前置き

メーカーの行く末であるとか誰が機材を入れ替えるとか、そういう話題がホットであるのは承知しているが、少なくともこの記事の中では他人に対して思うところがあるわけではないので、あまり深読みはしないでもらえると嬉しい。この記事はタイトルのとおり内省的な考察であって誰かに対するあてつけのつもりは本当になく、できるだけそういうふうに読めてしまわないように苦心して書いているつもりなので性善説に基づいて読んでもらえるとうれしい。

写真とカメラとわたし

そもそも写真という趣味において主体は写真であってカメラではないはずだが、一方でなぜだか我々はカメラについて語るのをどうにも止められないタチであるらしい。用途によって色んな機材を使い分ける人もいれば、特定の機材に執着して悲喜こもごもの撮影ライフを送る人もいるだろう(わたしもその一人かもしれない)。はたしてこれは無意味な感傷にすぎないのだろうか?

これは単なる持論でしかないのだが、何かしら芸術的な要素をふくむ活動においては「気分」というものが少なからず影響力をもっていて、「気分」が道具に左右される側面は無視できないものだと思っている。シンプルに言ってしまえば、お気にいりのカメラで写真を撮ると気分がアガるので、写真にも良い影響が出るだろうというだけの単純な話だ。まあこんな怪しげな持論をひけらかすまでもなく、お気にいりのカメラによって撮影ライフが充実するというのはそんなに多くの人には否定されないと思う。

そうなってくると、自分が何を考えてカメラを「気にいる」のかを考えてみるというのは、写真のできばえに何かしらポジティブな影響を与えそうな気がしてくる。将来的に更に気にいったカメラが見つかるかもしれないし、あるいは今使っているカメラの魅力を再発見することにもつながるかもしれない。より気分がアガれば撮れる写真だって良いものが増えるだろう。そうであってほしい。

ちょうどわたしが今使っている PENTAX K-3 Mark III は発売から1年が経つところで、この一年を振り返りながらわたしがこのカメラの何を気にいっているのか、どうして使い続けているのか―――このカメラは一体何なのかということを考えてみたいと思う。

ここすきポイント1:カスタムイメージ

これは人によっては邪道だとみなされるかもしれないが、わたしは色合いに多少味付けが効いた写真に仕上げるのがすきだ。センサーですくい上げたそのままの絵に、その場で自分の主観的な印象をちょっぴり付け加えるのを楽しいと感じている。K-3 Mark III のカスタムイメージはまさにそれを実現してくれる。

Masked Gargoyle

わたしは普段カメラをもってぶらついて、ふと目にとまる何かがあれば足を止めてファインダーを覗く…というスタイルで写真を撮っている。そのシャッターを切った瞬間に感じた印象―――それは例えば色あせた神社に漂うノスタルジーであったり、久々に訪れた旧居が朽ち果てつつある感傷だったり―――そういったエモーショナルな記憶をその場で写真に焼き込めるのがカスタムイメージの楽しさだと思う。

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もっと軟弱な話をすると、カスタムイメージありきで風景を見ることで写真が撮りやすくなるという実感もある。散歩していると「これは銀残しが映えそうな風景だな」とか「これは里びで渋く仕上げたい景色だな」なんて考えが浮かんで写真を撮ることもある。これではカメラに写真を撮らされているような気もするが、どちらにせよ自分の中ではアンテナが高くなっていることに変わりはない。共感はしてもらえないかもしれないが…。

ここすきポイント2:操作性

ここで詳しく解説はしないが、ハイパー操作系+グリーンボタン+スマートファンクションの使い勝手は K-3 Mark III で完成したと思う。非常にシンプルかつ妥当な操作体系で、「当然こう動くべき」という脳内の想定と完全に一致する動きをするのでたいへん気持ちよく操作できる。他社のカメラの操作体系は知らないので比較できないけど。

ほかにもグリップの良さ、測距点レバーの追加など操作性はとても満足できるものになっている。

ここすきポイント3:アストロトレーサー Type3

本撮影まえの予備露光で星の動きを検出し、手ぶれ補正の SR ユニットを悪用して擬似的に赤道儀を使ったような撮影ができる変態機能。適当に撮っただけでも本当に星が止まるのですごい。もっと積極的に推していくべき面白機能だと思う。下のツイートの2枚目が使用例。

これによって GPS 非搭載の不便さが大きく軽減された。たぶんこの機能は当初発売時に搭載する予定だったんじゃないかと思っている。

ここすきポイント4:自分がやりたいこととのマッチング

基本的には、わたしの撮影スタイルと K-3 Mark III が提供する機能セットがうまくマッチしているということに尽きる。

まずはファインダーだ。わたしが一眼レフを好んで使っているのは肉眼で被写体を見て感動しながら、同時に写真という形にも残すことができるという、安直な言葉で言えば「お得感」によるものだ。この点において、K-3 Mark III のファインダーは十分な仕事をしてくれていると思う。明るく倍率は高く、ファインダー内の表示も必要なものが揃っている。やはり APS-C サイズのコンパクトさに K-3 Mark III の広いファインダーのバランスはなかなかいいシステムなのではないかと思っている。

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一方で暗いレンズをつけた場合の体験があまり良くないという話は確かにあって、 明るい単焦点を使ったあとで HD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3ED PLM WR RE(以下 DA55-300)をつけると、これは素晴らしいレンズではあるのだけれども同時に「暗いな」という印象が否めない。F2.0 未満の明るいレンズがもうすこしラインナップにあると楽しみが増すだろうなとは思う。DA★35mmF1.4 とか出ませんかね。

もうひとつの大きな改善を謳っていた AF については、わたしは PENTAX K-S2 と本機以外の AF 一眼レフを使ったことがない+動体を撮らないということでかなり甘い評価になっていることを先に申し添えておく。性能については用途によって賛否両論かもしれないが、街角スナップのレベルではひとまず使える性能になっているとは思う。速度はレンズによるけれども、精度という観点ではまずまずといったところではないだろうか。上記の DA55-300 で AF-S を使うぶんには非常に高速かつ正確で、いまのところ不満はない。ずっと話題の HD PENTAX-DA★16-50mmF2.8ED PLM AW(以下 DA★16-50)の AF 精度は DA55-300 より少し劣るだろうか?合うときの速度はほぼ同じだけれども、DA55-300 はまず外さないが DA★16-50 はたまに外すといった印象だろうか。ボディ内モータの FA Limited シリーズでも問題はあまり感じていない。

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画質についてはやはり高感度の満足度がかなり高い。以前はアクセラレータユニットが搭載されていない K-S2 を使っていたというのもあって高感度を極力避けていたのだが、K-3 Mark III の高感度は頼りになる。許容できるボーダーは人によると思うが、わたしはオートの上限を ISO6400 に設定している。感度を上げてもカラーノイズが見えづらく、とくに絵のなかの明るい部分ではほぼ目につかない。暗いシチュエーションでも躊躇なくシャッター速度をあげられるのは心強い(↓はISO3200)。 一方で、低感度でも背景が若干の粉っぽさ(?)を感じる描写になることがあり、これはアクセラレータユニットの特性なのかなと思っている。高感度画質とのトレードオフなのであれば十分受け入れられる。

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弱点

一方で、ここでは弱点について考える。これはちょっと書くかどうか迷ったのだけれども、一般にペンタックスのカメラの弱点だと言われている部分が、わたしの日々の撮影においてはたまたま困らない部分であることが多かった。そのため、この節についてはどう書いても弱点の擁護みたいになってしまうし、困ってる人から見たらぜんぜん誠実じゃない書き方になっている。

基本的には前述のとおり普段の生活のなかでスナップ的な写真を撮ることが多いので、動きもので要求されるような AF 性能やバッファ容量が必要になることがめったにない。今回改善された内容だけでも使い勝手はずいぶん向上した。

バリアングルモニタや GPS などの機能が欲しくなる瞬間は間違いなくあるが、それはわたしの場合使っている時間のなかでも5%未満であり、それを省くことで少しでもボディが軽く小さくなってくれていると思えば残りの95%の快適さに寄与していると割り切ってわたしには許せてしまえる。もちろんフラッグシップモデルとしての万能性・高機能性を重要視するため許せない人もいっぱいいるだろうなというのも分かるけれども…。

あとは皆が口をそろえて言っていることだが、設定のエクスポートは確かにできて然るべきな気もしている。技術的にそんなに難しいのだろうか?他社ではできてたりするのだろうか。

まとめ

わたしにとっての K-3 Mark III は「万能性は(努力はしたけど)諦めて、相対的に大きな部分を占める日常的なシチュエーションでの使い勝手に特化させたカメラ」に見えている。これはメーカーがどう考えて製品を作ったかというのとは関係ない別の視点で、わたしからはこう見えているよということで。

「やはりこれではバッファも AF も満足できないよ」というユーザもいるだろう。今ではだいぶん安くなったが、機能や性能に対して価格が高すぎるという声もあった。ユースケースによってはそうなのだろうと思う。それを否定することはできそうにない。

それでも、わたしの独善的な視点では K-3 Mark III が素晴らしいカメラだと思っているし、今日もわたしの愛機として写真を撮り続けてくれている。ここでわたしの思いをはっきりと書いておく。「K-3 Mark III はいいぞ」と。わたしは K-3 Mark III が大好きだ。

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春宵

Snow covered Hibarako